すみれの部屋

おら海外さ来ただ!

そろりそろり(母)

母は「くのいち」として活躍するにはあまりに足音を消すのが下手くそなので、私のご先祖様は隠密なのですが、時代が時代なら、一家の出来損ないだった事でしょう。しかし、なぜ足音を消す必要があるのでしょうか。それは、娘たちの会話を全て聞いておきたいという願望ゆえなのです。

去る4年ほど前、母が我々の住むアパートに来て、やれ「私は奴隷」だの、「どうせ金さえ家に入れてればいいだけの存在だから自分にお金は使えない」だの言ってきました。夜になり、疲れ果てた私たちは、母が寝ていると思い込み、私と妹のドラミちゃんで「あれで道徳教育受けてきたなんてよく言うよ」と母のことを話したら、次の日「卑しい母親ですみませんね!帰ります!」と、次の日、実は屋外フェスティバルに行く予定だったのですが、勝手に帰ってしまった事がありました。母が帰ったことよりも、寝たふりをして聞き耳を立てていたことの方がパニックです。

それ以来、母の前では絶対に母については言及しない(礼賛する分にはOK)ようになりましたが、常日頃から母は自分が悪口を言われているのだと思いこんでいるため、特に私達姉妹が会話していようものならば、存在を消して(私たちはそのあたりの第六感は発達しているので、家の中では母がどこにいるのかすぐに分かる)人の話を盗み聞いています。

f:id:deb-log:20210723005151j:image

最近は、ドラミちゃんが1人で実家にいるので、時差がないのをいいことに、寂しさを持て余した私が夜な夜なドラミちゃんにテレビ電話をしています。ドラミちゃんは必ず母の隣で寝るという、末っ子故の宿命を背負っており、母の寝室で私と話しています。すると、母は声を聞きつけて、2階の寝室に抜き足差し足でやって来るのです。私たちに足音が聞こえていないと信じきっている母は、部屋の前でピタッと止まると、約1分、息を殺して私たちの会話を聞いています。その割に何なんでしょう、母がくると急にドアから尋常ではない圧を感じるんですよね。

そして、私たちが他愛のない話をしていると確信すると、ドアをそっと開けて、寝室の隣にある母の自室で電気を点けず、さらに存在を消して10分くらいでしょうか、耳を澄ましています。暗闇から視線を感じると、毎回幽霊ではなく母なので、人間の怨念、執念というものは中々に恐ろしいものだと実感させられるのです。

そんな中で育っていますから、私たちも「ママお仕事で疲れてるだろうね」「ママにこの服似合いそうだね」など、母のポジティブな話や、ペットの金魚、そしてどうでも良い話などをしています。すると、母は安心したようでもありつつも白々しく「あ、お姉ちゃんと話してたの?」とドラミちゃんが話している寝室に入って来るのです。

その後も、母は寝たふりをして耳を凝らしています。母のイビキは中々大きいのですが、自分でいびきをかいているなど1ミクロンも思わない母は、黙って、こちらに背を向けながら、目を見開いて聞いているようです。母がドライアイなのはきっと、盗み聞きをする際に瞬きを忘れてしまってるのでしょうね。

実家のドアを抜けると、渡航を制限されそうなどこかの北の方にある国とほぼ同じ感じです。ドラミちゃんは毎回命がけで、私のブログへのネタ提供をしてくれています。悪いことをしたわけでもないのに、こうやって隠語ができていくんだなぁと実感できるのも、我が家に生まれた醍醐味なのでしょうか。